やぁやぁやぁ。あとはどうやって帰国したかを書くだけで完結か、楽勝だぜ!と
4U(余裕)こいてたら1ヶ月以上も放置してた。気付いたら夏はすぐそこだ!
早く浮かれたい為に「家に着いて風呂入ってうんこして寝た」とだけ書いて終わらそうと思ったが
それじゃあ、ここまで読んでた友人達を馬鹿にしすぎ。
ましてや「長い文章読むの好きなんだよねー」と褒めて(?)くれたクライム6塾長に失礼すぎる。
って事で、よーやく最終話。最終話のセオリー通り、いつも以上に長くなっております。

昼メシ後も、店頭にイスを出して座り込み、いつもと何も変わらないのんびりとした時間だ。
時計を見るとチェックインの3時間前。ここからシェムリアップ空港まではバイクで順調に行けば
30分も掛からないだろうと、今日まで散々冷やかしまくったバイタクの連中に聞いた。
途中、何があるかわからんので、そろそろ出発した方が良さそう。
よっこいしょーいち!と、久しぶりに担いだバックパックの重さによろめきながら立ち上がる
オレの勇姿に、横であくびをしていたスレイナも気付く。
「行くのか?」
「うん、そろそろ帰るわ。色々とありがとね」
「ちょっと待ってろ」
一旦、店の奥(と言っても2m先)に消え、戻ってきたスレイナの手にはカンボジア名物の
てぬぐい・クロマーが1枚握られている。まだオレに売りつける気か!
「はい、これ給料!」
「ん?」
「日本人の客いっぱい呼んでくれたから、給料払うよ」
「マジで?」
「マジデ!」
「でも1週間近く働いて1ドル分のクロマー1枚かよ!随分安いな!」
2人でイヒイヒ笑っている光景を目にしたマイやスレイナの母ちゃんや店のオーナー様も
「あのジャパニーズようやくどっかに行くみたいだぜ」と悟ったらしく、わらわら集まってくる。
つられるようにガジラさんやトロリン師匠、一緒に遊んだ周りの土産物屋のヤツらも
店番を放ったらかしてオレの周囲を囲む。お前ら、また万引きされるぞ…
取り囲むみんなから「いつ来る?来年か?」と聞かれまくる。
「いやー来年は流石に無理かな。仕事してるっぽいしね」(この時はこう考えていた)
そう正直に答えると、ありがたい事に落胆した表情を見せてくれた。
「でもきっとまた来る!いつかは分からんけど…サムデイ!アイルビーバック!」
往年のパンチラインで〆て、オールドマーケットの出口に向かい通路を歩き出す。
出口に繋がる角を曲がる時「マサキ!」と名前を呼ばれ振り返ると、みんな気怠そうに
手を振ってくれていた。凄く良いシーンで写真に残したかったけど、この暗さじゃダメだな。
カメラを取り出すのをあきらめて、未来に帰るトランクスばりに親指だけ突き上げた。ぐっ。
マイの「グッドラック!」と言う言葉に背中を押されるように外に出る。

「サヨナラだけが人生だ」なんつう言葉を噛み締めている余裕はない。
外に出れば瞬時にまたカンボジア人に囲まれる。たださっきまでオレを囲んでいた
心暖かいヤツらとは違い、今は息がくせぇバイタクのオッサン連中。
こんなバックパック背負ってるヤツは1番おいしい客ってワケでみんな一様に
「ミスター、エアポート、4ダラーオッケー。ベリベリチープ」
バカそんなするかよ、そりゃプノンペンまでのバス代じゃねーか!1ドルで行け!と
捲し立てると「オー!ミスター!オー!」とか言って全員去って行った。
その後も鼻くそほじってるバイタクに片っ端から「ヘイ!カール!ヘイ!カール!」と
ミスターばりの英語で巧みに交渉するも全員が4ドルだの一点張り。お前らみんな組んでんもん!
道路脇で1人ぽつねんとトゥクトゥクに腰を掛けていたひ弱そうなオッサン。
このぐらい弱そうなヤツなら赤子の手を捻るようにベリーチープになんじゃねぇか?
おまけにオッサンが腰掛けているシートに目をやるとは、ナンバーが入った茶色のベストが
さりげなく、かつ目立つように垂れている。
ガイドブックによれば、こりゃあ、白タクじゃないよっつうドライバーの印らしい。
無用なトラブルを回避する為にもベスト着用のドライバーを選ぼう。との事。ふむふむ。
「ミスター、エアポート?」
「イエス!」
「4ダラーオッケー」
「ノーノー!1ダラー!」
「オー!ミスター!オー!3ダラーオッケー!」
「値切るの早ぇな!オッケー!2ダラー!」
「ノー!3ダラー!」
「2ダラー!」
「スリー…」
「2ダラー!」
「2ダラーアンド…」
「2ダラー!」
「トゥ…」
「2ダラー!2ダラー!2ダラー!」
首を縦に振るのと同時に、トゥクトゥクに乗り込もうとするオレを置いて
明後日の方向に歩き出すオッサン。おい、一緒に歩いて空港まで行くんじゃねーだろーな。
付いて来いと手招きするので後を追うと、オンボロのバイクの前で立ち止まり一言。
「よしっ、乗れ!バックは前に置け」
待て待て、オレはトゥクトゥクに乗るハズだ。
「あのトゥクトゥクはオレのじゃない。あそこで休んでただけだ」
そう言ってニヤニヤしてやがる。
くそぅ、これだ、今日までこのニヤニヤ顔をアホ程見た。
ボラれる時もメシを頼む時も写真を撮る時も馬鹿話する時も
いつだって目の前にはこの微笑と言うかうすら笑いがあったなー。
結局、白タクだったオッサンのオンボロに跨がり15分程で空港に到着。
近ぇ!アンコールワットより近ぇ!でもって空港小せぇ!海老名SAより小せぇ!
チェックインの際にごにょごにょ言われ、なんとか聞き取れた単語だけで察するに
「お前こんなに早く来ても、この空港で待つのは退屈だろうから1本前の飛行機で
バンコクまでお行きなさい。バンコクの空港はデカイから乗り換えの時間もヒマ潰せるだろ」
早くもなにも、普通にチェックインの2時間前なんだけどな。まぁ良きに計らえよ。って事で
「アハン、アハン、イエーイエー」と相槌打ち(文字にすると洋物ポルノじゃないか)
無事にチェックイン完了。カンボジアの入国も出国もド楽勝すぎて少し心配になるぐらい。
最後にカンボジアで聞いた言葉は、チェックインカウンターの女の「サヨナナ!」だ。

2時間後、バンコク到着。
先程のチェックインカウンターの女性の粋な計らいで成田行きの飛行機は8時間後。長ぇ…
ヒマ潰しも何も金が無いので、ひたすらベンチで寝て過ごすしかない。
これじゃあ1本前の飛行機でバンコクまで来た意味がねぇ。
むしろ、シェムリアップ空港で待ってた方が、余った4000リエルを使えるから良かったかも。
ようやく乗り込んだ成田行きの飛行機内でもとにかく寝る。趣味は寝る事かな。
ぐーぐーしてる時、突如誰かに揺り起こされ、眠い目をこすり見上げるとCAの姿。なんだ?
乗客の中に医者でも探していて、オレのあまりの気品の高さに勘違いしたのかと思ったが
どうもそうではないようで、オレが目覚めたのを確認するや否やニカッ!と笑い
「ブレックファースト、プリーズ」とサンドウィッチを放り投げてきた。
時計を見ると午前3時45分。こんな時間(しかも寝起き5秒後)に朝飯なんか食えるか!
フンガー!遺憾の意を表明する為、全部平らげてやった。
明朝6時過ぎ、じゅんじゅわ〜と成田空港に到着。恥ずかしながら帰って参りました!
入国審査を余裕で通り抜け、バゲッジクライムでバックパックをすんなりゲット。
だが最後の税関でまさかのストッピンナウ!
「どこに行かれてました?」
「えっと、カンボジアとベトナムです」
「1人で?」
「えぇ」
「ふーん…あのぅ、麻薬とか持ってません?」
なんつう質問だ!あまりのストレートな尋問に「ああああああのー」とキョドっていると
問答無用にバックパックを開け、がさごそ漁られる。洗っていないTシャツの臭いで
係員が一瞬オエッとなり、若干気まずさを残すも無罪で釈放。
日本の麻薬汚染は彼らの手によって守護されているのであります!
余談だけど、ジャマイカとかコロンビア、アムスから帰ってきた人間は別室に連行されて
タバコのフィルターまで剥がして徹底的に調べられるってのは本当なんだろーか。
あとはバスで横浜まで帰るだけだ!意気揚々に空港の外に出たらクッソ寒ぃ!
電光掲示板の温度計のトコには「3℃」の文字が点滅!思わず2度見した。
人間が暮らせる温度じゃないだろ。そんな中、オレの格好はサンダル、短パン、Tシャツと
サマーマッドネス全開。だってちょっと前までいたの最高気温38℃の世界だぜ。
パーカなどの上着をカンボジアの民に寄付した事を後悔しつつ(一生使わないそうだけど)
寒空の下、くんくんになり待つ事30分、乗り込んだバスの座席にもたれ掛るとともに他界。
バスの窓から見慣れた風景である横浜駅を眺め「うおっ!電車が走ってる!」と驚いた。
そしてそんな事に驚いた事に驚いた。つまり二重に驚いたって事。意味分かる?
えーっと、電車ってどうやって乗るんだっけ?多少戸惑いながらも
使い慣れたカボチャ色の(は、もう無いんだっけ)列車でサグタウン戸塚に向かう。
車内にはコートやダウンを着込んだ連中ばかりで、こんな季節外れの熱帯ボーイな格好、
おまけにバクテリアン並みの悪臭だと、いくらナイスガイでも周りには近付きたくはないようで
通勤時間でありながら、オレを中心とした半径20m以内には誰も寄らず、
この旅最後の乗り物は非常に快適であった。視線だけが痛かったが。
マイホームグラウンド・戸塚。
勤務先のアパレルショップ(お洒落)に通勤途中らしい高校の旧友スコッチにばったり遭遇。
言わずもがなさ、東京イチのお洒落さんであるスコッチはビビットなカラーリングもアウターで
春の訪れをさらりと演出。対するオレは浮浪者とメロコアキッズ(死語)を混ぜた格好に
馬鹿デカいバックパック。おまけにTシャツの胸元には「LEISURE(=暇)」と書かれている。
ギャハハ!なんだその格好は!と写メを撮られながら、
オレは、ニヤニヤと、あのうすら笑いを浮かべた。
そんで家に着いて風呂入ってうんこして寝た。
おしまいける